(前編)はこちら
さて、ここでようやく、冒頭の「せつなさ」という話に戻ることが出来る。女子は何のスポーツでもそうなのだが、表情が豊かで、感情の発露を、見る側が、実に気持ちよく受け取れる場合が多い。格闘技において、それは特に顕著となる。私見ではあるけれど、認めてくれる人も多いと思う。この考えをさらに踏み込んでいくと、打撃のみだと、やや陰惨さや残酷さが強調されてしまうし、グラップリングだと感情の爆発が乏しくなる。つまり、総合が丁度いい。まさにプロ向き、興行向きだと思っている。これが女子総合が語られる時に、常に言われ続けてきた「コンテンツとしての可能性」という奴だ。簡単に言えば、格闘技の格闘技らしい部分、つまり、誰が一番強いんだという素手ゴロ一番的価値観以外の部分で、充分、面白いのである。それを強引に一言で要約すれば「せつなさ」ということになるわけだ。
久保豊喜に女子をやらせるなら、金網だ。それが前提となる。それ以外ないというか、当たり前というか。そして、女子の魅力は「せつなさ」だ。
自分の興行演出家としての直感として、多分「せつなさ」は、金網の圧倒的なまでの存在感に負ける。ほとんどの試合は、金網に勝てない。もっと正確に言えば、「せつなさ」は、金網に邪魔されてしまい、客席までは届かない。それは繊細な表現なのだ。勿論、TV画面でアップで見れば、また別かもしれない。が、ライブにおいては、恐らく負ける。それは、技術的にも男子にも劣らない(と、やっと専門マスコミも認めてくれるようになった)トップクラスの選手であってもだ。では、誰なら、どの選手なら、金網に勝てるだろうか。
辻結花しか思いつかなかった。
辻結花は、女子総合を、スマックを、見てきた者にとって、そういう選手なのである。実力的にも、トップであるのは当然なのだが、時に神憑ったファイトをするのだ。男子で言えば、往時の桜庭やKID。慧舟會で言えば、勿論、宇野薫。女子に比喩するのに、こういう名前を出したら、失礼なのかもしれない。が、女子格主義者として、あえて、その失礼を冒す。とにかく、そこまで、別格であり、特別であることがわかってくれればいい。
久保豊喜の金網に、ケージフォースの金網に、スマックガールの象徴の、絶対女王の辻結花を、放り込む。
ああ、これだけで、立派な作品じゃないか。しかも、名作の予感がする。そう思ったら、自分の頭から、その妄想、いや構想が離れなくなってしまった。見たい。金網で、辻結花を見たい。辻結花が金網に勝てるのか、見たい。
そうして、久保豊喜が女子の金網をやるなら、それを全面的に手伝う決意をした。
この文章が載る予定の「VICTORIOUS」が発売される日、つまり9月27日のケージフォースに、辻結花の試合を組むべく動いた。
世間は厳しい。久保豊喜はもっと厳しい。上手くいかなかった。よくあること、で済ませたくはないが、すべては自分の力不足である。ご迷惑をおかけした関係諸氏には、深く深くお詫びしたい。が、11月8日、今度こそ、金網に入る辻結花が見られると思う。多分、見れると思う。見れるんじゃないかな。あちょっと覚悟はしておけ。今度こそ。今度こそ。
女子格。ジョシカク。それは、主に女子の総合格闘技をさすが、キックやボクシング、場合によっては、空手あたりまでを含めて、女子がやる格闘系競技の総称として使われてきた。ターザン山本氏が、2002年頃に作った言葉だ。
スマックガールが、当初予定した今年の7月と9月の大会を延期したことで(この原稿執筆時点では、代表の篠さんのブログで予告されている新体制による今後の予定は、まだ正式には何も発表されていない)、ジョシカクは壊滅的な状況に陥っていると、突如言われだした。長年関わってきた自分が驚くほどに、ここ数ヶ月で、専門マスコミは扇情的に、それを扱った。スマックの興行延期など、昔だったら日常茶飯事だったにも関わらず。
女子ボクシングは、JBCが認可し、女子のみ興行も開始され、通常の男子のみの興行に女子の試合が組まれることも増えてきた。女子キックは、J−GIRLSが、昨年より継続的に興行を開催している。北京オリンピックでの柔道・アマレスの、女子の活躍も目新しい。ここまでジョシカクの範囲を広げていいかは、さすがに疑問だが。
つまり、女子の格闘技という意味なら、別に壊滅的でも危機的でもないのだ。ジョシカクの危機というより、女子総合格闘技の危機なのである。女子の総合には、スマックガールしかなかったのである。そして、それは、スマックガールが、それなりに育ってしまったからなのだ。少なくとも大会の延期が、話題になる程度には。
スマックガールしか、続かなかった。寝技を30秒で制限するなどという総合にしては特殊なルールを採用し、久保豊喜に至っては「あれは総合ではない」と断言していたにも関わらず。それは何故か。実は、簡単な話で、本当はスマックだって、続くわけはなかったのだ。自分の知る限り、2001年以降のスマックの歴史で、採算が取れたことなど、一度もないのである。長年プロモーターをやった自分が言うのだから、これ以上確かなことはない。
そういう状況のまま、アマチュアも始めた。グラップリングもやった。柔術ともリンクしようとした。つまり底辺の拡大だ。同時に、プロ興行では、演出面にも力を入れ続けた。これ、プロモーターである以前にファンであった自分が主張しないと、誰も褒めてくれないので、あっちこっちで言っているのだが、後楽園以下の規模の興行で、映像演出を頑なに続けた先駆者はスマックガールであったりする。数年前から、プライドの佐藤Dが「煽り映像職人」などと言われ、映像演出が話題になることも増えたが、それ以前の頃の話だ。多くの団体が、それをやろうとした。が、どこも、その負荷に耐えられなかった。つまり、カネが掛かり過ぎるんだね。が、スマックは続けた。アマやグラップリングと連携する作業が、ピラミッドの底辺を横に広げることを目的とするなら、そういう興行としての華やかな演出や、競技的側面では、ベルトを作ってタイトルマッチを行うことは、ピラミッドの頂点をさらに高くしようとする作業だ。事実、4階級でベルトを制定し、チャンピオンがタイトルマッチで移動するというボクシング等では当たり前の状況まで、スマックでは実現していた。ケージフォースが、今苦労しているところだぜ。結構、大変なんだって。
つまり、男子の総合なら、修斗がありパンクラスがありDEEPがあり、そしてケージフォースがあり、その上に、メジャーがあるという状況があってこそ出来ていることを、女子では、スマックが、弱小であるにも関わらず、全部やっていたのである。何から何まで、やろうとして、そこそこ、やってしまったのだ。
スマックがやってしまっていたからこそ、そして、少なくとも、ここ数年は、大会延期など一度もしていなかったからこそ、今回のスマックガールの危機は、ジョシカクの危機と言われたということだ。
ケージフォースは、今、最も好調と言われる大会/興行だ。マニア受けもいい。「育てた選手の発表会」であることを公言し、事実、身内に優しい大会を続けてきたGCMが、ここまで、外(と言っても、いわゆる一般層までは届かなかったにせよ)に向けて、世界観を確立したのは、今や伝説と言っていいかもしれない、グラップリングのプロ興行、コンテンダーズ以来だと思う。しかも、現時点では、歴史的使命を終えた感があるコンテンダーズとは異なり、今後を、最も期待される興行だ。
そのケージフォースをやってるGCMが、久保豊喜が、女子をやる。
スマックが、無謀にもやろうとしたように、上から下まで、つまり底辺のアマから、頂上となるベルトまで、全部やるのか。そして、誰もが心配しているように、それは続くのか。
現時点での、自分の回答はこうだ。
そんなの、おれも、わかんねえよ。
続かせる努力はする。それは当たり前の話。が、努力の結果、現実としてそれが続くのかは、また別の話だ。
とりあえず、辻結花を、久保豊喜の金網に放り込んでみる。きっと、そこから何かが始まるんだ。
昨日、大阪の辻結花と、電話で話した。
「スマックではね、演出で、せつなさってのを、押し出そうとしてたの。でも、今度は思い切り、残酷でいいから」
自分がそう言うと、辻結花は答えた。
「得意分野です!!」
辻結花の、はにかんだ、それでいて自信たっぷりの笑顔が見えるようだった。きっと、残酷過ぎて、せつない。
CAGE FORCE OFFICIAL MAGAZINE「ヴィクトリアス」
#9 September.2008号掲載「女が金網に入る時−−長尾メモ8特別寄稿」より。
「ヴィクトリアス」のバックナンバーはケージフォース・オフィシャルサイトの「ショップ」コーナーから購入できます!

さて、ここでようやく、冒頭の「せつなさ」という話に戻ることが出来る。女子は何のスポーツでもそうなのだが、表情が豊かで、感情の発露を、見る側が、実に気持ちよく受け取れる場合が多い。格闘技において、それは特に顕著となる。私見ではあるけれど、認めてくれる人も多いと思う。この考えをさらに踏み込んでいくと、打撃のみだと、やや陰惨さや残酷さが強調されてしまうし、グラップリングだと感情の爆発が乏しくなる。つまり、総合が丁度いい。まさにプロ向き、興行向きだと思っている。これが女子総合が語られる時に、常に言われ続けてきた「コンテンツとしての可能性」という奴だ。簡単に言えば、格闘技の格闘技らしい部分、つまり、誰が一番強いんだという素手ゴロ一番的価値観以外の部分で、充分、面白いのである。それを強引に一言で要約すれば「せつなさ」ということになるわけだ。
久保豊喜に女子をやらせるなら、金網だ。それが前提となる。それ以外ないというか、当たり前というか。そして、女子の魅力は「せつなさ」だ。
自分の興行演出家としての直感として、多分「せつなさ」は、金網の圧倒的なまでの存在感に負ける。ほとんどの試合は、金網に勝てない。もっと正確に言えば、「せつなさ」は、金網に邪魔されてしまい、客席までは届かない。それは繊細な表現なのだ。勿論、TV画面でアップで見れば、また別かもしれない。が、ライブにおいては、恐らく負ける。それは、技術的にも男子にも劣らない(と、やっと専門マスコミも認めてくれるようになった)トップクラスの選手であってもだ。では、誰なら、どの選手なら、金網に勝てるだろうか。
辻結花しか思いつかなかった。
辻結花は、女子総合を、スマックを、見てきた者にとって、そういう選手なのである。実力的にも、トップであるのは当然なのだが、時に神憑ったファイトをするのだ。男子で言えば、往時の桜庭やKID。慧舟會で言えば、勿論、宇野薫。女子に比喩するのに、こういう名前を出したら、失礼なのかもしれない。が、女子格主義者として、あえて、その失礼を冒す。とにかく、そこまで、別格であり、特別であることがわかってくれればいい。
久保豊喜の金網に、ケージフォースの金網に、スマックガールの象徴の、絶対女王の辻結花を、放り込む。
ああ、これだけで、立派な作品じゃないか。しかも、名作の予感がする。そう思ったら、自分の頭から、その妄想、いや構想が離れなくなってしまった。見たい。金網で、辻結花を見たい。辻結花が金網に勝てるのか、見たい。
そうして、久保豊喜が女子の金網をやるなら、それを全面的に手伝う決意をした。
この文章が載る予定の「VICTORIOUS」が発売される日、つまり9月27日のケージフォースに、辻結花の試合を組むべく動いた。
世間は厳しい。久保豊喜はもっと厳しい。上手くいかなかった。よくあること、で済ませたくはないが、すべては自分の力不足である。ご迷惑をおかけした関係諸氏には、深く深くお詫びしたい。が、11月8日、今度こそ、金網に入る辻結花が見られると思う。多分、見れると思う。見れるんじゃないかな。あちょっと覚悟はしておけ。今度こそ。今度こそ。
女子格。ジョシカク。それは、主に女子の総合格闘技をさすが、キックやボクシング、場合によっては、空手あたりまでを含めて、女子がやる格闘系競技の総称として使われてきた。ターザン山本氏が、2002年頃に作った言葉だ。
スマックガールが、当初予定した今年の7月と9月の大会を延期したことで(この原稿執筆時点では、代表の篠さんのブログで予告されている新体制による今後の予定は、まだ正式には何も発表されていない)、ジョシカクは壊滅的な状況に陥っていると、突如言われだした。長年関わってきた自分が驚くほどに、ここ数ヶ月で、専門マスコミは扇情的に、それを扱った。スマックの興行延期など、昔だったら日常茶飯事だったにも関わらず。
女子ボクシングは、JBCが認可し、女子のみ興行も開始され、通常の男子のみの興行に女子の試合が組まれることも増えてきた。女子キックは、J−GIRLSが、昨年より継続的に興行を開催している。北京オリンピックでの柔道・アマレスの、女子の活躍も目新しい。ここまでジョシカクの範囲を広げていいかは、さすがに疑問だが。
つまり、女子の格闘技という意味なら、別に壊滅的でも危機的でもないのだ。ジョシカクの危機というより、女子総合格闘技の危機なのである。女子の総合には、スマックガールしかなかったのである。そして、それは、スマックガールが、それなりに育ってしまったからなのだ。少なくとも大会の延期が、話題になる程度には。
スマックガールしか、続かなかった。寝技を30秒で制限するなどという総合にしては特殊なルールを採用し、久保豊喜に至っては「あれは総合ではない」と断言していたにも関わらず。それは何故か。実は、簡単な話で、本当はスマックだって、続くわけはなかったのだ。自分の知る限り、2001年以降のスマックの歴史で、採算が取れたことなど、一度もないのである。長年プロモーターをやった自分が言うのだから、これ以上確かなことはない。
そういう状況のまま、アマチュアも始めた。グラップリングもやった。柔術ともリンクしようとした。つまり底辺の拡大だ。同時に、プロ興行では、演出面にも力を入れ続けた。これ、プロモーターである以前にファンであった自分が主張しないと、誰も褒めてくれないので、あっちこっちで言っているのだが、後楽園以下の規模の興行で、映像演出を頑なに続けた先駆者はスマックガールであったりする。数年前から、プライドの佐藤Dが「煽り映像職人」などと言われ、映像演出が話題になることも増えたが、それ以前の頃の話だ。多くの団体が、それをやろうとした。が、どこも、その負荷に耐えられなかった。つまり、カネが掛かり過ぎるんだね。が、スマックは続けた。アマやグラップリングと連携する作業が、ピラミッドの底辺を横に広げることを目的とするなら、そういう興行としての華やかな演出や、競技的側面では、ベルトを作ってタイトルマッチを行うことは、ピラミッドの頂点をさらに高くしようとする作業だ。事実、4階級でベルトを制定し、チャンピオンがタイトルマッチで移動するというボクシング等では当たり前の状況まで、スマックでは実現していた。ケージフォースが、今苦労しているところだぜ。結構、大変なんだって。
つまり、男子の総合なら、修斗がありパンクラスがありDEEPがあり、そしてケージフォースがあり、その上に、メジャーがあるという状況があってこそ出来ていることを、女子では、スマックが、弱小であるにも関わらず、全部やっていたのである。何から何まで、やろうとして、そこそこ、やってしまったのだ。
スマックがやってしまっていたからこそ、そして、少なくとも、ここ数年は、大会延期など一度もしていなかったからこそ、今回のスマックガールの危機は、ジョシカクの危機と言われたということだ。
ケージフォースは、今、最も好調と言われる大会/興行だ。マニア受けもいい。「育てた選手の発表会」であることを公言し、事実、身内に優しい大会を続けてきたGCMが、ここまで、外(と言っても、いわゆる一般層までは届かなかったにせよ)に向けて、世界観を確立したのは、今や伝説と言っていいかもしれない、グラップリングのプロ興行、コンテンダーズ以来だと思う。しかも、現時点では、歴史的使命を終えた感があるコンテンダーズとは異なり、今後を、最も期待される興行だ。
そのケージフォースをやってるGCMが、久保豊喜が、女子をやる。
スマックが、無謀にもやろうとしたように、上から下まで、つまり底辺のアマから、頂上となるベルトまで、全部やるのか。そして、誰もが心配しているように、それは続くのか。
現時点での、自分の回答はこうだ。
そんなの、おれも、わかんねえよ。
続かせる努力はする。それは当たり前の話。が、努力の結果、現実としてそれが続くのかは、また別の話だ。
とりあえず、辻結花を、久保豊喜の金網に放り込んでみる。きっと、そこから何かが始まるんだ。
昨日、大阪の辻結花と、電話で話した。
「スマックではね、演出で、せつなさってのを、押し出そうとしてたの。でも、今度は思い切り、残酷でいいから」
自分がそう言うと、辻結花は答えた。
「得意分野です!!」
辻結花の、はにかんだ、それでいて自信たっぷりの笑顔が見えるようだった。きっと、残酷過ぎて、せつない。
CAGE FORCE OFFICIAL MAGAZINE「ヴィクトリアス」
#9 September.2008号掲載「女が金網に入る時−−長尾メモ8特別寄稿」より。
「ヴィクトリアス」のバックナンバーはケージフォース・オフィシャルサイトの「ショップ」コーナーから購入できます!




